食と農のあいだで – 「身体性」と「小さな道具」たち

2023年の10月から、名古屋芸術大学デザイン領域の学生たちとEdible Classroomプロジェクトを実施している。

掲げている目標としては、

「食」 x 「ローカル」をキーワードに名古屋周辺エリアで、食の生産や流通、消費にスポットをあて、フィールドリサーチを遂行し、そこから得られた「気づき」を展示などを通してより多くの人たちと共有し、書籍等にアーカイブしていく

ということで非常にざっくりとしているが、立ち上げ1年目というのもあり、とりあえず手探りではあったが今年の春ごろからフィールドリサーチをはじめていった。

実際に行なっていることは、小規模で営み、直接生産物を販売しているプロの農家さんや、家庭菜園の枠を超えて野菜作りなどを実践するアマチュアやセミプロの方々にインタビュー取材をするということ。ローカルな朝市に顔を出したり、私の知人のツテで紹介してもらったりして、出会った人たちに取材を申し込んだ。突然のお願いにもかかわらず、皆さん快く受けてくださった。

皆それぞれ、食物をつくり、誰かに渡す(売る・あげる)という、そのやり方や理由、その中でのこだわりは少しずつ異なっていて十人十色(まだ10人も取材していないけど…)。何かしら共通のことが出てこないかといろいろな方向から話をしてみる。もちろん、あくまで会話の流れやその時目に入ったものを大切にしながら、である。次第に、おぼろげながらキーワード的なものが浮かび上がってきた。

キーワードのひとつ目は「身体性」。

畑での作業もそうだし、それを実際に誰かに売ったりあげたりするというのは、当然ながら身体の感覚を伴って起こる。その中で、いろいろなことを感じ取り、考えている。

例えば、大学や専門学校で教育やその周辺の業務をされているYさん。アマチュアとして野菜を作ったり養蜂をしたりしている。昨年、初めて採れたという蜜も分けていただいた。とにかく全部試してみる質だそうで、自宅にもさまざまな電動工具や道具がストックされていた。中でもハサミの数が20を超える。

「とりあえず買ってみて、試してみる。気に入ったものを見つけたらそれを使い続ける」。実際に触って使って、自分の感覚を頼りに、道具を選ぶ。そんな「身体性」を大切にしたスタンスが、彼の仕事の選び方や暮らし方、生き方にも通じているような気がした。

ふたつ目のキーワードは「小さな道具」。

要するにハンドツールだったり、手作りの道具だったり、からだの延長として存在する道具たちだ。1つ目のキーワードである「身体性」ともおおいに関係する。

上述のYさんの場合はハサミがそのうちの1つだし、その他、取材したプロの農家さんも、自作の農具や、お気に入りの道具などを見せてくれた。

bamboo organic farmの山本さんは、竹でハウスを作ってしまうほどの手先の器用さをもつ人だが、その竹製ハウスの入り口にしめ縄の飾りがかけられていた。てっきりこれも彼の手によるものだと思って聞いたら、出店している朝市で別の出店者のものを購入したそう。

関係性の中でたまたま出会ったしめ縄を、渾身のバンブーハウスの入り口に縁起担ぎのために何気なく飾る。しめ縄自体に実用的な機能はないが、これも彼にとっては大切な「小さな道具」だと言えそうだ。

そして何より、こうした小規模で農を実践している人たちにとって、農作物それ自体がその人自身と周囲の人々や環境とを繋ぐための「小さな道具」ではないだろうか。

こうしてみてみると、当初掲げている「食の生産や流通、消費」という枠組みや表現が少し大袈裟というか、なじまないようになってきている気がする。どちらかというと、より個々の人たちやその人たちが語る世界との関係性に焦点を当てる内容になっている。

もちろんこれは私の考えたことで、取材を経験した学生たちが、彼らなりの「身体性」でどう感じたかはわからない。10月後半に栄のスローアートセンター名古屋にて展示を行うので、参加してくれた学生とも展示の制作を通して改めていろいろな話をしていきたい。

Yさんの作業場の壁