京都市立芸術大学 プロダクトデザイン専攻 2020後期

京都市立芸術大学のプロダクトデザイン専攻、後期の実習が終わりました。

2020年度はやはりコロナの影響で、前期の実習は半分くらいリモートだったそうですが、私が担当した後期は、なんとか大学に集まって行うことができました。まったくの”普段通り”というわけではないのですが、それでも顔を合わせて話ができるというのは、リモートと比べてコミュニーケーションの情報量が格段に違うということを実感させられます。

さて、今回は私は「記録」というテーマを出しました。

記録するためのモノをデザインするということではなく、「記録」そのもののデザインです。

実習の初めに、なぜ「記録」?というのを伝えたくて、都築響一さんの『圏外編集者』や高橋源一郎さん・辻信一さんの『雑の思想』など、何冊か本を紹介しました。

情報を省略してすっきりまとめるのが「デザイン」の得意なところだと思うのですが、世界はどんどん複雑になっていて、情報を切り捨てて単純化することの弊害のほうが大きいんじゃないかという考えが私の中に少し前から出てきています。

一つ一つの現象・もの・行為を省略せず見つめる、受け入れるということが実は大切なのではないか、と最近思っているのです。

具体的に何を記録するかについては、各自、自分の興味関心を出発点に、今・現在の社会性や時代性なども考慮に入れて、決めていきました。

実習に参加した学生は4人で、食べ物のパッケージ(=プラゴミ)をひたすら小さく折りたたんで記録する、いろいろな場所(公共施設・お店)のトイレの貼り紙を写真に撮ってアーカイブしていく、SNS上で「ひとりごはん」をアップしている人を見つけて、レシピを聞いて再現していく、大学の周辺エリアのバスルートについて歴史的視点からまとめる、とバラエティにとんだ内容でした。

食べ物のパッケージを選んだ学生は、自分がコンビニなどで食べ物を買うときに選ぶ基準が「食べやすさ」や「食べたあとのゴミがきれいにまとまるか?」といった点が最もプライオリティが高く、「美味しさ」や「今これを食べたい!という気分」よりも優先されるというのが出発点。

もうすこし話を聞いていくと、食べたあとの袋などをとにかくキッチリ畳んで小さくする、カフェで出される紙製のおしぼりを使ったあと、入っていた袋にもどしてギュッと口を結んでおく、とかいろいろマイルールがあるのだと。

そんな話から、そういえばレジ袋が有料化されたから、食べたあとのゴミって結構気になるよね、という話になり、「パッケージを徹底的に小さく畳む」という記録をしてみようということに。

すごく些細なことではあるけれど、やってみると意外に奥深く、何かに繋がりそうな可能性もあるプロジェクトでした。

他の学生たちも、同様に自分の普段何気なくしていることと、時代性や社会性、環境などが交わる切り口を見つけて、テーマ設定していきました。

記録というのは、その対象物を自分から積極的(能動的)に作り出す場合と、環境や他の人の行為から見つけ出していく場合と2パターンがあると思っています。前者は、対象物がすでにデザインの一部になっていて、デザイナー自身もある意味では記録の一部となっている。後者の場合は、記録の対象物に出会うのにある程度時間や空間に余裕がないといけなかったり、コントロールできない部分もあるので、先が見えない分少しじっくり構えるイメージです。

約3ヶ月の実習課題としては、やはり前者のほうが最後まで持っていきやすいのですが、時間が許すのであれば、またモノによっては後者もさまざまテーマを扱えそうではあります。

今回は最終的にはみんな記録を本の形にまとめて終わりましたが、立体含め、もうちょっといろいろなフォーマットになっても良かったかな、と反省もあります。ただ、後から振り返って見返せるというのは、やはり紙や本の良さですね。

さらに、この課題では直接プロダクトのデザインはしていないのですが、「こういうプロダクトになりそうじゃない?」というアイデアの種が「記録」の中から出てきたりもするので、観察して記録することを別の機会でもやってみてもらえたら、と思いました。