京都市立芸大プロダクトデザイン専攻、後期の課題は「お正月飾り」。
1年の始まりにその年の「年神様」を迎えるための飾りとして、伝統的にしめ飾りや門松などが飾られてきましたが、最近は飾らない家も増えていますし、飾っていても昔に比べて簡略化していたりと、時代とともにそのあり様も変化しています。課題では、そんなお正月飾りを見つめ直し、学生それぞれが新たな「お正月飾り」を提案をすることをゴールにしました。
まずは、既存のお正月飾りを知るため、学生たちに自分たちの地元のお正月飾りと、知り合いや友人(地域の異なる)のお正月飾りについて、リサーチをしてもらうことからはじめました。
多くのプロダクトが、使うことでその機能を果たしますが、「飾り」というプロダクトは、「飾ること」が機能であり、目的です。中でもお正月飾りには、単に福を招くというだけでなく、長寿だったり、金運だったりと、さまざまな意味が込められていて、そのことが機能の多様化につながっています。そして、込められる意味や思いは素材や形と呼応し、デザインの多様化へと着地しています。当然ながら、その多様性は地域性とも深い関わりがあります。
期間限定の飾りであることも、大きな特徴で、飾るまでのプロセスや飾り終わった後の処分の仕方にも、地域ごとに特徴があることが、学生たちのリサーチからもわかりました。
ところで、お正月飾りの代表格である注連飾り(しめかざり)は、稲わらで作られているものが一般的ですが、先日、京都のギャラリー日日(にちにち)さんにて、大麻の注連飾りなるものを展示していたので、出かけてみました。
展示されていた大麻の注連飾りは、京都で代々、寺社仏閣や相撲(神事)用に麻を縒っている山川家の方によって、作られたものだそうです。お寺や神社のしめ縄は、昔から大麻を使っているようで、艶やかさやしなやかさ、強靭さなど、稲わらとはひと味もふた味も違う素材感に惹きつけられます。
大麻といえば、現代では麻薬としてのイメージが強く、日本でも栽培が規制されていますが、近代以前は日本各地で栽培されていて、繊維としてはもちろん、さまざまな形で人々の暮らしに溶け込んでいた植物だったそうです。
最近は海外でも医療用をはじめとして合法化の動きが盛んになってきています。綿花よりも丈夫で、栽培に水や肥料をあまり必要としないので、もし大麻がもっと活用されれば、地球環境の観点からも有益だという考え方もあるようです。
正月飾りから少し話がそれました。
今回展示されていた注連飾りは全部で5種類で、どれも日本各地に残る伝統的なモチーフを取り入れたものだそうです。こちらは「玉(ぎょく)」という名前の注連飾りで、一重の輪(和合)と前垂れ(一貫)が組み合わり、吉祥をあらわずデザイン。シンプルですが、力強さを感じます。
大麻の注連飾りは、稲わらの注連飾りとは異なり、長持ちすることから、毎年新しいものにしなくても良いそうです。「注連飾り=毎年新調するもの」と思い込んでいましたが、素材が変わることで習慣も変わるのだということに改めて気づかされました。逆にいえば、素材によって私たちの習慣や行動は制約されている、ということでもあります。ハードウェアとソフトウェアの関係性や、新しいデジタルデバイスが私たちの暮らしを変えていくのも、同じことですね。
そして、経年とともに変化していくであろう色や風合いを楽しむことも、新たな正月飾りの習慣になるのかもしれない、と思いました。
ということで、この「玉」の注連飾りを我が家に迎えることに。
実習は、来週が中間発表。それぞれのお正月飾りを、そこに込める意味とともに見出してもらえたらと思います。