デザインのためのリサーチ -錦市場と京都の「食」展を訪ねて

東京にあるアーツ千代田3331内、京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 東京ギャラリーで行われていた「デザインのためのリサーチ -錦市場と京都の『食』展」へ行ってきました。

アーツ千代田3331は初めて訪れたのですが、建物の前の緑地スペースには、大きな木(楠?)がゆったりと新緑の枝を伸ばし、その下のベンチで人々がぼんやりしたり、お昼を食べたりと、ちょっとした憩いの場のような雰囲気。お天気が良く、汗ばむほどでしたが、それもまた心地よさを感じました。

展示が行われていたのは、2Fにある、比較的こじんまりとした1室。

この展示は、京都工芸繊維大学の学生が2015年から3年間にわたって京都の台所・錦市場をフィールドに、京都の食についてのリサーチを重ね、建築スペースの提案をしたワークショップのまとめ的な内容でした。

入ってすぐの壁面には、1年ごとの概略がパネル展示されていました。プロジェクトは初年度から毎年、バーゼル大学(スイス)のマニュエル・ヘルツ教授とシャディ・ラーバラン氏を招いて行われたそうです。

2015年は、あらゆる食物の原料となる「水」の流れ(原料〜食品〜廃棄物)を通して京都という都市を理解するという命題のもと、京都の地理的・歴史的・文化的背景を一通り俯瞰したのち、食文化をリサーチし、さらに錦市場の中のお店をフィールドに食材の流れをたどっています。

2016年は、錦市場で「食べ歩き」が流行り出し、食べながら通りを歩く観光客がごった返す状況への建築的プロポーザルをするため、前半で「Market in the world」と題して、世界各地の市場を取り上げてリサーチ。こちらは主にオンラインでのリサーチのようです。後半は、錦市場のお店を訪ね、かつては地元の人たちの台所だった市場が観光客で溢れている現状についてどう感じているか、インタビューを通して探っています。

会場では、その成果を年ごとにまとめた冊子(2年分)が展示してありました。2016年のフィールドリサーチで「Store Overview」として紹介されているお店の様子は、一つ一つ読んでいくと、なかなか読み応えのある興味深い内容です。

また、リサーチの中で見えてきたという、京都の食に通底する24節気との関係をチャート化したもの、24節気ごとの食材の色をスウォッチ化したカラーパレットがそれぞれ壁1面ずつを使って展示されていました。

2017年は、2016年のリサーチを受けて、食べ歩きを軽減するための具体的な建築の提案を行ったそうで、その模型がありました。

展示のフライヤーを見ると、タイトルの下にマップやらリサーチのスケッチやらが描かれているので、展示内容もそうしたリサーチの一次資料が豊富に見られるのかな?と期待していたのですが、意外にもそうしたものはほとんど見られず、デザイン提案が大部分を占めていたのが、もったいない気がしました。

そのせいで、リサーチとアウトプット(カラーパレットやスペースのプロポーザル)の間の関連性がうまく伝わってこず、その結果、デザインに説得力が生まれてこないのも残念でした。

2015年、2016年の錦市場でのフィールドワークの一次資料など、現場でしか得られない情報をもう少し展示としてしっかり見せることで、チャートやカラーパレットの意味合いやストーリーが浮かび上がってくるのでは、と感じました。

最初の写真は展示室の外からの風景ですが、ここでは、展示タイトルと中の壁に展示された24節気のカラーパレットが重なって、ぱっと目を引きます。その意味では、プレゼンテーションとしては成功と言えるかもしれません。展示スタッフの方も、たまたま通りかかって入ってきてくれる人が結構います、とおっしゃっていました。

リサーチをベースにしたデザインは、フィールドワークや資料・データなどから得た具体的な素材と、そこから導き出され、編集された抽象概念やデザインとのバランスや相関関係の見せ方・伝え方が大切だな、と改めて感じました。

それにしても、都心のど真ん中でこんな風にプロジェクトの展示ができるとは、うらやましい限りです。

ところで、スイスから招かれたというマニュエル・ヘルツ教授とシャディ・ラーバラン氏。このプロジェクトは、きっとこのお二方にとって、(もしかしたら学生以上に)楽しく刺激的だったんだろうな、と感じました。フィールドリサーチは、普段の生活からの距離が大きければ大きいほど、新鮮な目で対象と向き合えるのではないかと思うのです。